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2005.05.31

聴こえる社会と聴こえない社会

プライバシーのこともあるので書こうかどうしようか、迷っていたことを記事にしようと思います。
全国ろう児をもつ親の会」の方に、随分前にその話をして欲しいと言われたことがあったのですが、気持ちの整理もつかず言葉もうまく選べずにいました。

人生を決めるのは自分自身ですが、選択肢は多くしてあげたい・・・私はそう思うのですが、みなさんはどうでしょうか。

もう、随分前のお話です。
生まれてから一度もろう者と接してこなかった、ひとりの聴覚障害を持った男子学生が大学に入学してきました。
小学校・中学校・高校と一般の学校で、読話と友人の手伝いで特別な問題もなく大学生になりました。

彼は大学4年のあと、大学院へ進学しました。
専門は理工系の技術関係なので、大学3年以降は授業でもかなり苦労したと思います。
彼も親御さんも、大学に対して特別な情報保障を求めませんでした。

何度か親御さんと話した私の個人的な印象ですが「聴こえないことを認めていない」感じでした。
「普通の子どもと変わらない」「訓練すれば問題ない」そう思って・・思おうとして、聴こえない事実を認めず手話を拒否する親御さんは、よくいますがこの学生の親は特にかたくなでした。
彼自身も、親の期待にこたえようとしていました。

大学院へ進学するとき、指導教員はコミュニケーションの限界を感じ、彼に「一緒に手話を勉強しよう」と声をかけました。
大学の先生がそんなことを提案することに、当時の私はびっくりしました。
「もし、彼と先生が手話学習を始めるなら私も協力します」その気持ちを、素直に2人に伝えました。

でも彼の答えは「NO!」でした。
「手話は必要ない。今までどおり読話で充分。」という答えをだしました。
彼を縛り付けるものに、親の「普通であって欲しい」というこだわりがあったのだと思います。

手話を覚えて、手話で会話してみる。
同じように聴こえなかったり、聴こえにくかったりするヒトたちと交流してみる・・・その勇気を持って欲しいと私は思いました。
確かに彼には友人がいました。
いつも数人で集まってワイワイしていましたが聴こえない彼は、1対1の会話にはそこそこついていけても、集団での飛び交う会話にはついていけません。
私には彼は仲間といても孤独そうに見えました。

手話を覚えてろう者と話したら、楽しいのに・・・と思いながら彼を見つめていました。
一度飛び込んで、経験してみてそれでも手話が必要ないと思うなら構わないと思います。
でも、体験もせずに拒否し続けることが私にはとても不自然で、親の期待にこたえようとする彼の呪縛のように思えました。

彼はまじめで優秀でした。
指導教員の理解もあったので、大きな問題もなく修士課程を修了することになり就職活動の時期になりました。

就職活動の時もやはり、彼も親御さんも「普通と同じ」にこだわり、障害者枠での募集には目を向けませんでした。
彼ほど優秀なら、障害者枠ですぐに就職が決まるはずです。
けれど彼は、聴こえる学生と同じ条件で同じように採用試験を受けました。
当然、面接の時の受け答えができません。
何社も何社も何社も落ちました。
周囲の学生たちはどんどん大手企業に内定していきます。

結局、指導教員や就職指導職員の助言もあり、最終的には障害者枠で超大手企業の研究員として就職をしました。
それでも、「障害者枠での採用」ということで親御さんは満足していない様子でした。

人生はヒトそれぞれなので、聴こえるヒトの方にだけ向いて生活することが悪いことだとはいいません。
本人が希望するなら、構わないと思います。

「聴こえない」事実は受け入れる必要があるものだし、聴こえないから不幸なのではないということも、家族で理解する必要があるのだと思います。
世界を狭めることはしない方がいい・・・。
ろう者の世界も聴者の世界も知った上で、友人や仲間を作っていった方がずっと人生楽しめるんじゃないかと感じました。

価値観はヒトそれぞれなので押し付けるつもりはありませんが、聴こえる友人といても、寂しそうな目をしていた彼の表情が忘れられません。

手話に関わっているヒトたちの中でも、「普通」にこだわる彼の親の気持ちがわかるというヒトもいます。
でも、今の私には分かりません。
もし私が聴こえない子供の親の立場になったら、言語習得にはこだわるけれど、聴こえる子どもと同じになることにはこだわりません。
手話と日本語両方を覚えて欲しいと思います。
自分の気持ちを伝えられないストレスを持たせたくないと思います。
「共感できる」ということは、とても幸せなことだと思うのです。

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コメント

すごく悲しいお話ですね。

でも私も、もし手話に関わってなくてきこえない子を産んだとしたら、そうなっていたかもしれません。
(もちろん 今は全然そんなこと思ってませんけどね)

もっと、社会全体が自然に受け入れられるようになればいいのに・・・
そのためには、手話に携わる私たち(や聾者)に何ができるのだろう?

投稿: みきぼう | 2005.05.31 14:10

★ みきぼうさん
正直、彼がどう感じていたのか私にはわからないんです・・・。
「幸せだ」って思っていたのかも知れません。
でも、なんか私はフクザツな気持ちでした。
聴こえる私がろう者と接しても楽しかったり、発見があったりなのに・・・。
共感できるヒトがいるだろう世界はすぐそばにあるのにな・・・って。

私も手話とかかわっていなかったらどう考えていたのかな・・・?

投稿: ドシル | 2005.05.31 23:13

やはり出会いでしょう。
大学の同級生がインテグレーションした奴ですが、アンダーグラディエートの時に、聴懇に関わり、大学院時代に青年部活動に関わり、聴覚障害者団体の専従になった奴がいます。
やはり出会いが人生を変えるんでしょうねぇ・・・。

投稿: 叫び | 2005.06.01 08:02

★ 叫びさん
出会いは大切なんですが、本人が「ろう者と会ってみよう」と思わないとなかなか、きっかけがなかったりします。
私の知人にも、インテしてその後ろう協の青年部の行事に参加したのをきっかけに、活動しているヒトがいます。

早瀬久美さんは大学での情報保障を求めた中で、ろう学生団体との出会いがあったと聞きます。
やはり、本人がその気にならなければその出会いのきっかけさえも逃してしまう気がします。

彼が就職先で、ろう者と出会っていればいいなと思います。

投稿: ドシル | 2005.06.01 10:46

ドシルさん
早速リンクの変更ありがとうございました。
この記事については、他人事とは思えないですね。

私も地方でインテ経験ですが、幼少時に通ったことばの教室で一緒だったろう(難聴)の仲間の中には今でも手話を知らない人もいるだろうと思います。「手話を覚えると、世界が広がるよ」と言っても、覚えようとはしません。多分それなりに楽しくやっているんだろうと思います。。。(もったいないなーと思うけど。)

やっぱり、出会いのきっかけと本人の意思なんでしょうね。私は大学で上京して、いろんな出会いがあったのですが・・・。

手話を覚えるまでの本人の心の葛藤みたいなのは少し分かる気がします。それまで「口話」がすべて、という世界であったのに、突然「手話」が必要!といわれて、これまでの価値観を思い切り変えないといけなくなるんでしょうね。なんかそれって、あなたの母国語は日本語ではなくて、アフリカ語でしょ!っていわれるくらいの気がします。^^;

今までの自分はなんだったんだろうって、否定されるような気持ちになってしまうのかもしれません。
大学の中だけにいると、まわりは当然聴者の同級生だけなので、自分が手話をマスターしたところで、(周りが覚えてくれなければ)会話ができる手助けにはならないという思いも、手話を覚えたばかりのころには、ありました。

行き着くところは、小さいときからのろう教育が一番大切なんでしょうね。。。それと聞こえる子どもたちに対する教育も。今は社会も大分変わってきていますが。

その大学の先生は、先生のほうから「手話を覚えましょう」って歩み寄ってくださってるんですよね。私もびっくりしました。すばらしい!

投稿: Raum | 2005.06.01 18:21

テンプレ、戻りましたねえ~。
私は、このテンプレの、字体が好きです~。

リンク先変更、紹介文共々、ありがとうございます!
ドシルさんにとっては、私もRaumさんも、同じ日に(いやあしかし、すごい偶然で、びっくりです)で、忙しかったかしら?(笑)


さてさて、素通りするには、ちょっと後ろめたい話です。
なんていうか、本人さんが「幸せだ」と、思っていても、私はやっぱりさびしいなあ、と思います。
手話を知って、ろう者と出会って、それから、やっぱり聴こえる世界で、というなら、いいのですけどね。

なんとなく、姫のことを思いました。
やつは、学生時代、かなり葛藤しています。
手話だって、サークル入ったくせに、1年ほどまったく覚えませんですごし、その後、何のきっかけか、知らん間に、どわーっとろう世界に入り、今やアメリカですもんねえ。
ほんと、人生いろいろです。

投稿: おじょうひん。→いちご。 | 2005.06.01 20:36

★ Raumさん
Raumさんはインテグレーションした後に手話を覚えたんですか?
それとも、インテの前に手話を習得したのかな・・・?

確かに母語を否定されるのはアイデンティティーにかかわる問題ですよね。
でも、本当にもったいないと私も思います。

★ いちご。さん
改名後初コメントありがとうございます~。
もう~、2人で突然ココログやめちゃうから(笑)びっくりですよぉ。

姫さんはいい出会いがあったんですね。
「彼」もどこかで、いい出会いをしていたらいいな・・・と、思います。

なんか、思い出そうと思っても笑顔の時の顔が思い出せないんですよね・・・。
いつも私の口の動きを見て理解しようと、不安そうに見ている瞳。
私はつい、手が動きそうになってぐっと耐える・・・。
手話をしてしまうことは、「彼」にはよくないことだと思ったので一生懸命、手話をしないように我慢した記憶があります・・・。

投稿: ドシル | 2005.06.01 21:37


>>Raumさんはインテグレーションし>>た後に手話を覚えたんですか?
>>それとも、インテの前に手話を習>>得したのかな・・・?

説明不足ごめんさない。
インテ後大学に入ってから覚えました。
私の友達にもそういうケースが多いです。ろう者と出会っても、手話を頑なまでに否定する人も何人か見てきました。

いちごさんのコメントを読んで、あー姫さんと私、状況似てる!!と思ってしまいました。
最初はなかなか手話を受け入れられなかったんですよね。^^;
いつか記事に書いてみようかなぁ。

>>確かに母語を否定されるのはアイデンティティーにかかわる問題ですよね。
>>でも、本当にもったいないと私も思います。

そうですね。
新しい世界を知ってから振り返ると、ほんとにそう思います。

>>もう~、2人で突然ココログやめち>>ゃうから(笑)びっくりですよぉ。

(笑)
私もびっくりしましたよぉ。
相談してたわけじゃないんですけど、以心伝心かな?笑


投稿: Raum | 2005.06.01 23:55

★ Raumさん
ありがとうございます。
手話を覚えたのは、大学に入ってからですか~。
インテしたヒトは大学で覚えるヒトが多いのかなぁ・・・。

私の友人の場合も大学に入ってからが多いみたいです。
高校のとき手話クラブに入って・・・という難聴のヒトもいましたが、手話クラブどこの高校にもあるわけじゃないですもんね。

投稿: ドシル | 2005.06.02 07:18

補足で~す!

「インテする」ってなんですか?
という質問を頂いたので、書いておきます*^^*
手話やろう者にかかわっていないヒトがご存知ないのは、当たり前ですね(^^;

「インテグレーション」とはろう学校から一般学校(聴こえる子供たちが通っている学校)に転校することを言います。

↓のサイトに詳細が書かれていますので、興味のある方はご覧ください(^^)
http://www.deafdream.com/deafworld/index_5.htm

ろう者や手話とかかわっていると当たり前の言葉をつい使ってしまいますが、判らないときはどしどしご質問ください*^^*
手話を知らないヒトにも興味を持っていただけたら、うれしいです☆

投稿: ドシル | 2005.06.04 16:20

私もその大学生の男の子と同じだ。
だけど、ごめん。
なんか、認められないよ。
言いたいけど言えない。
なんでやろ。
就職も出来て3年経ったし、表面上で
こう上手く行っているような感じだけど
自分が回りに嘘ついているみたいで辛い。
嘘つこうなんて思わないけど
自分のことを伝える勇気もない。
自分のこと伝えて、かわいそうだなんて思われたくない。
普通にしてて欲しい。
(ほかってて欲しいと思ってしまう)
手話を覚えるのも正直大変。
いいわけだと思うけどこんな自分から抜け出せない。
いつまで自分を戦うんだろ。。。

投稿: peace | 2005.07.18 00:36

★ peaceさん
もし手話に興味があるなら、少しはじめてみてはどうでしょう?
私たち聴こえるヒトが英語や中国語や韓国語を学ぶように、手話をはじめてもいいと思います。
嫌になったら辞めてもいいし、もしかしたら新しい出会いがあるかもしれません。
無理をすることはないけれど、何か新しいことも始めてみるのもいいかも・・です。

投稿: ドシル | 2005.07.18 20:13

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